中小企業のための IoTマスタープレイブック Ver.5 2025年5月版
【はじめに】
今から100年以上も前、16歳の少年が「光と同じ速度で光を追いかけると、光は止まって見えるのか?」という疑問を抱いたそうである。彼はその疑問を出発点に様々な思考実験を行い、1905年に特殊相対性理論を発表するに至った。その頃を生きる人々の時代背景に光の速さに関する思考実験を行う必然性や逼迫感があったとは思えず、彼自身に特別な才能があったからこそ行われた思考実験であったと考えるのが精一杯である。
彼(=アルバート・アインシュタイン)の相対性理論のお陰で知らない場所でも比較的楽に行ける様になったり、安心して飛行機に乗れる様になった現代であるが、現代の経営環境においてはその頃とは逆に、ある思考実験を行う必然性や逼迫感が迫っていると感じている。その思考実験とは「もしも、自分の視覚や触覚が離れた場所で使えるとしたら、自分の仕事はどう変わるのだろう?」と考えることである。その理由は、彼の時代にはなかったIoT(Internet
Of Things=モノのインターネット)の普及である。
IoTとは何か、という話題については様々な立場や切り口で多くの意見があると思うが、その多様さ故、企業経営の観点では円滑に導入し使いこなすまでの道筋が整備されていない印象がある。フロンティア意識の高い一部の組織にとっては未整備故自分の後に道ができる、と高いモチベーションで挑んでいるところもあると思うが、経営資源に制約がある中小企業においては、やはりある程度の指針がなければ入口に立つことさえ厳しいと感じている。
そこで筆者は、なぜIoTなのか、という切り口で中小企業がIoTを使いこなせる様になるまでの脚本、すなわちプレイブックを整備したいと考えた。約100年前の光の速さに関する思考実験が現代社会の技術基盤を支えている様に、これから読者の皆さんが行うIoTに関する思考実験が今後の経営基盤強化に役立つことを願っている。
(補足)冒頭のアインシュタインの疑問は雑誌Newton 2013年10月号、特集:「アインシュタインの時間論」より引用した。
【Ver.5 改訂時コメント】
2020年3月の発案時から5年以上経過したが、他者(他社)の事例に頼らず脚本思考でスキルを蓄積していくという本質的な部分にブレはないが、二つの点を意識して改訂を決意した。一つ目は、IoTという言葉がいつの間にかDXという単語に飲み込まれてしまった印象があること、二つ目はChatGPTを初めとした生成AI技術の活用方法について追記したいからである。
ここ数年で、国や地方自治体等による施策に関連して『DX推進』という言葉を見かけるようになったが、そもそもこの言葉を使う人たちは『なぜDX推進が必要なのですか?』という問いに対して正しい答えを伝えられるのだろうか?筆者の推測で申し訳ないが、施策として『DX推進』という言葉を使う人たちの間では、『人口縮小、成熟期経済において労働生産性を高めることが急務だよね』と誰かが言えば、『確かに、そうだよね!』で済む人たちが物事を決定しているのだと考えている。
では現実問題として、地方自治体の職員等が地元の中小企業経営者から、『そもそも生産性って何?』と聞かれた際、その職員は相手を納得させられるような応対ができるかどうか、考えたことはあるだろうか?残念ながら筆者の経験では、双方が納得できるような会話が成立する可能性は極めて低いと考える。だからこそ、その困惑に巻き込まれたくない行政側は先行事例に頼るしかなく、売上が上がったとか経費が削減できたとかの事例を集めることに躍起になるのではないか?
無論、事例紹介のすべてが悪いとは言わないが、企業支援の観点からは事例に頼らない手法が必要だと考えている。そのためには、関係者がそれぞれの立場において『生産性って何だろう?』と考えることが重要であり、その際に使える手法の一つにIoTがあると考える。DX推進という言葉に飲み込まれてしまった印象があるが、IoTの考え方をすっ飛ばしてはDX推進は成り立たないということを改めて主張し、内容を強化する。
補足)本書で紹介している生成AIは、主にOpenAIが提供する対話型AI「ChatGPT」(バージョン:GPT-4、利用日:2025年5月時点)を活用しているが、イラストについては「いらすとや」様の素材を利用している。
【概要紹介】
IoT習得のための5つの鉄則鉄則1.背景を知る
①半導体技術の進歩
②情報端末の多様化
③通信コストの低下
④開発環境のオープン化
⇒この先どうなるか? ちょっと想像してみると・・・
鉄則2.触ってみる
・オススメは英国発の教育用マイコンmicro:bit
英国の11〜12歳に100万台が無償提供されその効果は実証済み
現在、日本でも販売されており合法的に利用可能(技適取得済)
⇒子供向けではあるが、簡単にプログラミングを体験できる
様々なセンサーを組み合わせ、プログラミングの効果を体感してみる
鉄則3.目的をイメージする
・やってみたいこと、出来たらうれしいことをイメージしてみる
(注意点)
×自社の生産ラインに速やかに導入する
→自社の環境でどのような使い方ができるか、慣れるまで時間をかけて試してみる
×既に市販されているシステムを安価に作って貰う
→市販の機能を参考に、自社で必要な機能の組み合わせを検討する
⇒目的をイメージして慣れてくると、次に何が欲しいかが分かるようになる
鉄則4.小さな失敗を蓄積する
・ほとんどの場合、最初から想定通りに動かないし予想しない事象が必ず起こる
失敗の内容(性質)は組織により異なるが経験すれば必ずレベルは上がる
・お金に直結すること、生命に関わることには慣れるまで手を出さない
⇒IoT導入の成功ポイントは小さな失敗を積み重ねること
他社の導入事例は参考にはなるが自社が習得するための決め手にはならない
鉄則5.支援機関と上手に付き合う
・何かをやってもらうのではなく、うまくやるためにどうすれば良いかを知る
・【こたえ】を求めず、ヒントを探す場所
・選択肢はどんどん求めて欲しいが、意思決定を求めないこと
⇒今は出来ないことを出来るようになるため、上手に利用して欲しい